Classiques japonais avec furigana
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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
Lisez 聞書抄 (ききがきしょう) de 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 108 821 caractères · 210 écrans
さればその時の乳母は、相手が順慶だと知れると幾らか安心はしたものゝ、悪い所で悪い者に掴まったと思って、
「おゝ、そなたはあの畜生塚の―――」
と、そう云ったきり口を噤んだ。
「左様でござります」
と、月を仰いでいた行者は乳母の方を向き直りながら、長い杖のあたまへ頤を載せた。
挿絵
「愚僧を見知っておいでとあらば、定めし此のあたりの町のお方かと存じますが、ようこそお参りをしてお上げなされた。御奇特なことでござりますな」
「いえ、いえ」
と、乳母は否定した。そうしてあとを云われぬ先に、行者の杖に手を持ち添えてやりながら、
「わたくしどもは、たった今通りかゝっただけのこと、お参りをしていたのではござりませぬが、お尋ねの首は」
と、行者をその方へ振り向かせて、
「それ、こゝでござりますぞえ。此方を向いてお拝みなされませ」
と、ねんごろに教えてやってから、黙って娘をさしまねいて、「さあ、行きましょう」と眼顔で伝えた。が、教えられた地点に立った行者は、どう云う訳かすぐには拝もうとしないで、二た足三足歩きかけた背後の草履のおとを聞くと、
「もし」
と云って、又振り返った。
「無躾なことを伺うようでござりますが、もしやお身たちは、治部殿のゆかりのお方では」