Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
その側には、また、もう一人の女がいた。
両手をついて、合掌している女性のごとく、これも果てしなくうつむいている。縷々としてのぼるのは香の煙である。
糸より細い煙のすじが、床の香炉から夢のように立っている。そして、日蔭の丁子に似るゆかしい香りが板一重を隔てたお綱をも酔わせて、恍惚と、身のある所を忘れさせる。
「ああ、誰だろう……? ここは一体どこなのであろう?」と、お綱の頭脳がその時、一心に考え迷った。
と一緒に、かれの記憶を、ピーンとよみがえらせたのは。
お千絵様?
その人の名であった。
「たみや……」
ひッそりとした静寂のなかに、鈴をふるような声がした。床に向って、名香を焚き、石のごとく目を閉じていたやかな女性――その人の口から、やがて、低く洩れた言葉なのである。
「はい」
侍いて、手をつかえていた中年の女。心もち顔をあげて、ジッと、仕えるお方の姿を見上げているうちに、何の意味か……ポロポロと畳に落つる涙の音……。
女は、泣いているのである。
と。床に向っている女性の、うしろ姿も、ソッと涙を拭くらしい。
絹に漉されるほのかな灯が、あたりを柔らかに照らしてはいるが、さすがに夜、ましてや地の底――、部屋の調度の美わしさも、若い女性の住む所にある明るさも、すべてが、深沈とした鬼気にかき消されて、一味の凄さ、という