Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
ようなものさえ流れているかにみえる。
おっ。たしかに、お千絵様。
お綱は、胸をドキッとさせた。
そことは、板一重の穴蔵部屋で、やっと小指の入るくらいな隙まを作った所から、お綱は、息を殺して覗いている。
そして、その人こそ、お千絵様にまぎれのない方――と思いながら、お綱は、何とは知らずゾーッとして、髪の毛から足の先まで、全身の血が、凍ってくるかのような心地をおぼえた。
凄いといって、生れてから、こんな凄い気がしたことはない――と、お綱は後で、万吉にもしみじみ話したことである。
でも、じっと、息をひそめて覗いていると。
「たみや……」
夜の淋しさに堪えぬかのようにまたこう呼んで、若い女性は、はふり落つる涙をふく。
凄いとみれば、円山応挙の美女の幽精。チリにもふれぬ深窓の処女とみれば、花水仙の気高さを思わせる姿である。その女性こそ、甲賀家の家付きの娘、お千絵様なのであった。
かかる冬の冷々とするのに、下には色地の襟をみせているが、上には、白絖の雪かとばかり白いかいどりを着て、うるしの艶をふくむ黒髪は、根を紐結びにフッサリと、曲下げにうしろへ垂れている。
「お嬢様……」