Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
鳶の光、火事頭巾、火消目付の緋らしゃなどが、煙にまじって渦まく中を抜けて、勧学坂から袋町を突ッきり、やがて己れの棲家まで来てみると、すでにそこは一面の火の海。
世阿弥の家のあとを初め、二十七家の隠密組の屋敷は、あとかたもなく焼け落ちて、坩堝を砕いたような余燼の焔は、二人を嘲るごとくメラメラと紫色に這っていた。
「ウーム……」と唸いてしまったきり、二人は口もきかずにいた。
その紫の火の色は。
お十夜の眼には、お綱の焼け溶ろける火かとも見え、また、周馬の眼には、お千絵様の焼ける焔、惜しい財宝が、燃えきれずにいる火かと恨めしく映る。
「オオ、大変だ!」
いつか風が変っている。ヒョイと気がついた孫兵衛が、ふりかえってみると、袋町を縫った火は、下町へまで移りだして、まごまごしていると逃げ道を塞がれそうな形勢だ。
「それ、あぶねえぞ」
幻滅の悲哀を抱いて、火に追われた二人の悪玉は、足に力もなく走りだした。大樹があるので焼け止まった堤がある。そこをヒラリと躍り越えると、落莫とした冬木立の下に、サーッと響いてゆく水音が聞こえた。
柳原へ落ちてゆく、神田川の流れらしい。