Classici giapponesi con furigana
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おさん
おさん
山本 周五郎
Leggi おさん di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 33.128 caratteri · 66 schermate
そうだとも、そうではないとも云わなかった。本当のことが話せたらいいのだが、口に出して云うわけにはいかなかった。夜のあのとき、おさんといっしょになるたびに、二人がそこから押しのけられ、おれが自分の中からいつもなにかを失うように感じる、という事実をどう説明することができるか。また幾たびか失神状態になるとき、おさんの口からもれる人の名を、いちいち訊き糺すことの徒労(さめてから聞くと、それはたいてい幼いころの友達とか父の友人とか、少女時代に住んでいた長屋のこわい差配、などというたぐいだったし、おさんに隠した男などがないことはもうはっきりしていた)が、どんなにみじめであり、しかも、やはり平気には聞きのがせない、という気持を云いあらわす言葉をおれは知らなかった。仕事が終れば帰って来るよ、とおれは繰り返した。きっとね、待ってるわよ、とおさんは云い、すぐにまた泣きだした。あんたにいなくなられたら、あたしはすぐだめになってしまう、すぐめちゃめちゃになってしまうわ、とおさんは云った。一年か二年はなれてみよう、おれは心の中でおさんに云った。そのあいだに事情が変るかもしれない、おさんの癖が直るかもしれないし、おれ自身がもっとおとなになって、おさんの癖に付いていけるようになるかもしれない。