Classici giapponesi con furigana
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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
Leggi 榎物語 (えのきものがたり) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 33.519 caratteri · 67 schermate
三
明くる朝、国吉は眠りが足りないのに、誰よりも早く起き、はれやかな、これまでになく活き活きした顔つきで、元気よく働きだした。庭を往き来するとき彼はひそかに榎のほうへ眼をはしらせた。手のあいているとき、弁当を使うときにも、その眼は榎のほうへ吸いよせられていた。
三
そのころさわは茶筅作りに熱中していた。姉妹は十二三のころから茶の稽古を始め、妹のなかはすぐに飽きたが、さわはいまでも師匠についてい、茶筅や茶杓の作りかたも覚えた。どうしてそんなことをするのかと訊かれたら、――訊かれたことは一度もなかったが、自分のような者は嫁にもゆけないだろうから、と答えたであろう。厄介者で一生を送るとすれば、僅かでも自分の手で稼げる仕事を覚えておきたい。さわはそう考えていたのだ。
「生れて初めてだわ」茶筅を作りながらさわはそっと呟いた、「――泣くほど辛いことでもあるんですかって、あのひとはあたしのことを気にかけていてくれたのよ」
さわの内部で新しい感情がめざめた。以前にも似たような経験はあったが、似ているというだけで、要素はまったく違っていた。いま彼女は、十七歳になった娘の感情にめざめたのだ。