Classici giapponesi con furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Leggi 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 148.519 caratteri · 296 schermate
「ですからあたし、いそいで頂戴したんですわ」
「いい呼吸だった」
甲斐は頷いて、おかげで侯は命びろいをしたよ、と云った。
「命びろいをしたですって」
「駕籠はまだか」と甲斐が高い声で云った。すると次の間ですぐに、「まいっております」と丹三郎の声がした。
「どういうわけですの、どうして酒井さまが命びろいをなすったのですか」
「舎人と丹三郎がいるのを忘れたのか」と甲斐が云った。「私が辱められれば二人は黙ってはいない、必ず侯に斬ってかかる、もっとも、私がそれを待ってはいないがね」
「恐ろしいことを」とおくみは身ぶるいをした、「そんな恐ろしいことを、本当に考えていらしったんですか」
「私の命と引換えで済むならな」と甲斐は声をたてずに笑った。
おくみはもういちど身ぶるいをし、では自分が盃をもらってよかった、と太息をつきながら云った。
甲斐は頭巾をかぶりながら立ちあがった。おくみはにわかに別れが惜しくなったようすで、甲斐の羽折の袖や袴の裾などを直しながら、涙ぐんだ声で旅中の無事を祈り、留守の辛さをくどき、また会うことの約束をせがんだ。甲斐は辛抱づよく受け答えながら、丹三郎に声をかけ、玄関へと出ていった。