Classici giapponesi con furigana
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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
Leggi かんかん虫は唄う (かんかんむしはうたう) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 91.006 caratteri · 182 schermate
「おばさん、こんばんは」
豚の如く肥えたここの内儀さんは法華信者とみえて、店先から見通しの部屋で、非常に木音のよく響くものをカチカチと懸命にたたきながら、トム公を横目に見て、
「こんばんは」
と、お題目のあいだに言った。
「これネ、おばさん」
「はあ」
「ここンちの自転車だろう。居留地で、自転車を持っとる家は、何軒もないからね」
「そうだよ、家のだよ」
「八番館の横にあったから、持って来てやったよ。いいかい、ここへおいとくよ」
「おやじさんは、見なかったかね」
「見なかったよ。――駄ちんに、鶏卵一個貰っとくぜ」
卵の箱から、一箇取って、奥へ示しながら往来へ出た。彼は空腹だった。何しろ、きのうの銀貨は、みんな亀田の家族に貢いでしまったので。
トム公は、木靴の尖で、卵の殻の両端をコツコツたたいた。歩きながら、小さな穴を開けようとして、ていねいに、殻の亀裂をむしッている彼の姿は、いかにも無邪気なマドロスである。
チュッと舌を鳴らしながら美味そうにそれを啜った。――と思うと、いきなり拳を振りあげて、彼へ嗅覚を向けて来た野良犬へ、卵の殻をたたきつけた。犬は驚いて、横ッ飛びに逃げた。