Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
死のなかの風景
妻が息をひきとったとき、彼は時計を見て時刻をたしかめた。
妻の母は、念仏を唱えながら、隣室から、小さな仏壇を抱えて来ると、妻の枕許の床の間にそっと置いた。すると、何か風のようなものが彼の背後で揺れた。と、彼ははじめて悲しみがこみあげて来た。彼はこれまでに、父や母の死に遭遇していたので、人間の死がどのように取扱われるかは既によく知っていた。仏壇を見たとき、それがどっと彼の心にあふれた。それよりほかに扱われようはない死がそこにあった。苦しみの去った妻はなされるがままに床のなかに横わっているのだ。その細い手はまだ冷えきってはいなかったが、はじめて彼はこの世に置き去りにされている自分に気づいた。今は彼もなされるがままに生きている気持だった。
「僕は茫としてしまっているから、よろしく頼みます」
葬いのことや焼場のことで手続に出掛けて行ってくれる義弟を顧みて、彼はそう云った。昨夜からの疲労と興奮が彼の意識を朧にしていた。妻のいる部屋では、今朝ほど臨終にかけつけたのに意識のあるうちには間にあわなかった神戸の義姉がいた。彼はひとり隣室に入って、煙草を吸った。障子一重隔てて、台所では義母が昼餉の仕度をしていた。