Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
秋日記
緑色の衝立が病室の内部を塞いでいたが、入口の壁際にある手洗の鏡に映る姿で、妻はベッドに寝たまま、彼のやって来るのを知るのだった。一号室の扉のところまで来ると、奥にいる妻の気配や、そちらへ近づいて行こうとする微かに改まった気分を意識しながら、衝立をめぐって、ベッドのところへ彼がやって来ると、妻はいたずらっぽい微笑で彼を迎える。すると彼には一昨日ここを訪れた時からの隔りがたちまち消えてしまう。小さな卓の花瓶にコスモスの花が、紅い小さなボンボンダリアと一緒に挿してあるのが眼に留ると、彼は一昨日は見なかったダリアの花に、ささやかな変化を見出すのではあったが、午後の明るい光線と澄んだ空気は窓の外から、今もこちら側を覗いている。……
ベッドの脇の椅子に腰をおろした彼は、かえって病人のような気持がするのだった。午後になると微熱が出て、眼にうつる世界がかすかに消耗されてゆく、そうすると、彼には外界もそれを映すものも冴えて美しくなった。彼の棲んでいる世界はいま奇妙な結晶体であった。彼はその限られた世界の中を滑り歩いていたし、そうして、妻の病室へやって来る時、その世界はいちばん透きとおっていた。