Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
床の間に置かれた小さな仏壇のまわりには、いつのまにか花が飾られて、蝋燭の灯が揺れていた。開放たれた縁側から見ると、小さな防空壕のある二坪の庭は真暗な塊りとなって蹲っていた。その闇のなかには、悲しい季節の符号がある。彼が七年前に母と死別れたのも、この季節だった。三日前に、「きょうはお母さんの命日ね」と妻は病床で何気なく呟いていたのだが。……母を喪った時も、暗い影はぞくぞくと彼のなかに流れ込んで来た。だが、それは息子としてまだ悲しみに甘えることも出来たのだ。だが今度は、彼はこれからさきのことを思うと、ただ茫として遠いところに慟哭をきいているような気がした。
妻の寝床は部屋の片隅に移されて、顔は白い布で覆われていた。そこの部屋のその位置が、前から一番よく妻の寝床の敷かれた場所だった。彼女は今も何ごともなく静かに睡りつづけているようだった。だが、四年前に拵えたまま、まだ一度も手をとおさなかった訪問着が夜具の上にそっと置かれていた。電灯の明りに照らされてその緑色の裾模様は冴えて疼くようだった。ふと外の闇から明りを求めて飛込んで来た大きな螳螂が、部屋の中を飛び廻って、その着物の裾のところに来てとまった。