Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate

Aozora Bunko

それは妻を喪う前から、彼の外をとりまいて続いている暗いもの悲しい、破滅の予感にちがいなかった。今も電車のなかには、どす黒い服装の人々で一杯だった。ホームの人混みのなかには、遺骨の白い包みをもった人がチラついていた。久し振りに映画会社に行くと、彼は演出課のルームの片隅にぼんやり腰を下ろした。間もなく、試写が始って、彼も人々について試写室の方へ入った。と、魔の影はフィルムのなかに溶け込んで、彼の眼の前を流れて行った。大陸の暗い炭坑のなかで犇めいている人の顔や、熱帯の眩しい白い雲が、騒然と音響をともないながら挽歌のように流れて行った。映画会社の階段を降りて、道路の方へ出ると、一瞬、彼のまわりは、しーんと静まっていた。秋の青空が街の上につづいていた。ふと、その青空から現れて来たように、向うの鋪道に友人が立っていた。先日、彼の家に駈けつけてくれた、その友人は、一瞥で彼のなかのすべてを見てとったようだった。そして、彼もその友人に見てとられている自分が、まるで精魂の尽きた影のように思えた。

「おい、なんだ、しっかりし給え」

「駄目なんだ」と彼は力なく笑った。だが、笑うと今迄彼のなかに張りつめていたものが微かにほぐされた。