Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
人々はその辺で一かたまりになって蹲った。撮影機を抱えた人や、蝋燭を持った人の姿が茫と見えた。じっとしていると、壕の壁は冷え冷えとした。ふと彼にはそこが古代の神秘な洞穴のなかの群衆か何かのようにおもえた。さきほど見た小さな飛行機も幻想のように美しくおもえた。……やがて、その騒ぎが収まると、後は嘘のように明るい秋の午後だった。彼は電車の窓から都会の建築の上の晴れ亘る空をぼんやり眺めていた。来るものが来たのだが、何という静かな空なのだろう。
来るものは、しかし、それから後、つぎつぎにやって来た。ある午後、家で彼は机にむかって何か書きものをしていた。遠くで異様なもの音がしていると思うと、たちまちサイレンと高射砲のひびきが間近にきこえて来た。彼は机を離れて身支度にとりかかった。
「おや、案外落着いていられるのですね」と義母は彼の様子を見て笑った。彼も自分自身の変りように気づいていた。いきなり恐怖につんざかれて転倒する姿を、以前はよく予想していたものだ。だが、今は異常なもののなかにあっても逆上は殆ど感じられなかった。妻がまだ生きていたらと……彼はふと思った。病妻が側にいたら、彼の神経はもっと必死で緊張したかもしれないのだ。