Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
太古の闇のなかで脅える原始人の感覚が彼には分るような気がした。
だが、ある夜、壕を出て部屋に戻って来た義母は、
「ああこんな暮しはもう早く打切りましょう。私は郷里へ帰りたくなった」と切実な声で呟いた。すると彼にはすべてがすぐに了解できるようだった。一つの時期が来たのだった。病妻の看護のために彼の家に来ていてくれた義母は、今はもう娘のためにするだけのことは為し了えていたのだ。年老いた義母には郷里に身を落着ける家があるのだ。急に彼もこの家を畳んで、広島の兄のところへ寄寓することを思いついた。すると彼には空白のなかに残されている枯木の姿が眼に甦って来た。それは先日、野菜買出しのため大学病院の裏側の路を歩いていた時のことだった。去年彼の妻がその病院に入院していたこともあり、感慨の多い路だった。薄曇りの空には微熱にうるむ瞳がぼんやりと感じられた。と、コンクリートの塀に添う並木の姿が彼の眼にカチリと触れた。同じ位の丈の並木はことごとく枯枝を空白に差し伸べ冷え冷えと続いているのだ。それを視ているとたちまち悲しみが彼の顔を撫でまくるような気持がした。が、もっと深い胸の奥の方では静かに温かいものがまだ彼を支えているようにおもえた。