Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate

Aozora Bunko

それから僕は宿なしの身になっていたのだが、それから……。苦悩が苦悩を追って行く。――つみかさなる苦悩にむかって跪き祈る女がいた。

「一度わたしは鏡でわたしの顔を見せてもらった。あれはもうわたしではなかった。わたしではない顔のわたしがそんなにもう怕くはなかった。怕いということまでもうわたしからは無くなっているようだ。わたしが滅びてゆく。わたしの糜爛した乳房や右の肘が、この連続する痛みが、痛みばかりが、今はわたしなのだろうか。

あのときサッと光が突然わたしの顔を斬りつけた。あっと声をあげたとき、たしかわたしの右手はわたしの顔を庇おうとしていた。顔と手を同時に一つの速度が滑り抜けた。あっと思いながらわたしはよろめいた。倒れてはいないのがわかった。なにかが走り抜けたあとの速さだけがわたしの耳もとで唸る。わたしの眼は、わたしが眼をあけたとき、濛々としているものが静まって、崩れ落ちたものがしーんとしていた。どこかで無数の小さな喚きが伝わってくる。風のようなものは通りすぎていたのに、風のようなものの唸りがまだ迫ってくる。あのとき、すべてはもう終っているのだ。だのに、これから何か始りそうで、そわそわしたものがわたしのなかで揺れうごいた。