Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
その後もその女とは裏通りなどでパッタリ行逢っていた。一緒に歩く時間も長くなったし、一緒に喫茶店に入ることもあった。人生のこと、恋愛のこと、お天気のこと、文学のこと、女は何でもとり混ぜて喋り、それから凝と遠方を眺める顔つきをする。絶えず何かに気を配っているところと、底抜けの夢みがちなところがあって、それが彼にとっては一つの謎のようだった。お天気のこと、恋愛のこと、文学のこと、彼は女の喋る言葉に聴き惚れることもあったが、何かがパッタリ滑り堕ちるような気もした。
ああして、女がこの世に一人存在していること、それは一たい何なのだ……その謎が次第に彼を圧迫し脅迫するようになっていた。それから、ある日、何故か分らないが、女の顔がこの世のなかで苦しむものの最後のもののように、ひどく疼いているように彼にはおもえた。
「あなたのほんとうの気持を、それを少しきかせて下さい」彼は突然口走った。
「もう少し歩いて行きましょう」と女は濠端に添う道の方へ彼を誘った。水の面や、夕暮の靄や、枯木の姿が何かパセチックな予感のようにおもえた。女は黙って慍ったような顔つきで歩いている。何かを払いのけようとする、その表情が何に堪えきれないのかと、彼はぼんやり従いて歩いた。