Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
顔に生気がなく、焦躁の色が目だった。康子が握飯を差出すと、彼は黙ってうまそうにパクついた。それから、この家の忙しい疎開振りを眺めて、「ついでに石灯籠も植木もみんな持って行くといい」など嗤うのであった。
前から康子は土蔵の中に放りっぱなしになっている箪笥や鏡台が気に懸っていた。「この鏡台は枠つくらすといい」と順一も云ってくれた程だし、一こと彼が西崎に命じてくれれば直ぐ解決するのだったが、己の疎開にかまけている順一は、もうそんなことは忘れたような顔つきだった。直接、西崎に頼むのはどうも気がひけた。高子の命令なら無条件に従う西崎も康子のことになると、とかく渋るようにおもえた。……その朝、康子は事務室から釘抜を持って土蔵の方へやって来た順一の姿を注意してみると、その顔は穏かに凪いでいたので、頼むならこの時とおもって、早速、鏡台のことを持ちかけた。
「鏡台?」と順一は無感動に呟いた。
「ええ、あれだけでも速く疎開させておきたいの」と康子はとり縋るように兄の眸を視つめた。と、兄の視線はちらと脇へ外らされた。
「あんな、がらくた、どうなるのだ」そういうと順一はくるりとそっぽを向いて行ってしまった。