Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate

Aozora Bunko

このバスは二時間おきに出るのに、これに乗ろうとする人は数町も続いていた。暑い日が頭上に照り、日陰のない広場に人の列は動かなかった。今から宇品まで行って来たのでは、帰りの汽車に間に合わなくなる。そこで私は断念して、行列を離れた。

家の跡を見て来ようと思って、私は猿猴橋を渡り、幟町の方へまっすぐに路を進んだ。左右にある廃墟が、何だかまだあの時の逃げのびて行く気持を呼起すのだった。京橋にかかると、何もない焼跡の堤が一目に見渡せ、ものの距離が以前より遙かに短縮されているのであった。そういえば累々たる廃墟の彼方に山脈の姿がはっきり浮び出ているのも、先程から気づいていた。どこまで行っても同じような焼跡ながら、夥しいガラス壜が気味悪く残っている処や、鉄兜ばかりが一ところに吹寄せられている処もあった。

私はぼんやりと家の跡に佇み、あの時逃げて行った方角を考えてみた。庭石や池があざやかに残っていて、焼けた樹木は殆ど何の木であったか見わけもつかない。台所の流場のタイルは壊れないで残っていた。栓は飛散っていたが、頻りにその鉄管から今も水が流れているのだ。あの時、家が崩壊した直後、私はこの水で顔の血を洗ったのだった。