Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
その路の隈々には人間の白っぽい骨が陰々と横わっている。歪んだ掟や陥穽のために、磔刑や打首にされた無数の怨恨が今も濛々と煙っている。無辜の民を虐殺して、その上に築かれてゆく血まみれの世界が……その世界のはてに今この白い路が横わっているのだろうか。
その年の春、その土地へ移る前のことだが、彼は妻と一緒に特高課に検挙された。三十時間あまりの留置ですぐ釈放はされたが、その時受けた印象は彼の神経の核心に灼きつけられていた。得態の知れない陰惨なものが既に地上を覆おうとしているのだった。
息苦しさは、白い路を眺めている彼の眼のなかにあった。だが、暫く妻と一緒にそこに佇んでいると、やはり戸外の夜の空気が少しずつ彼を鎮めていた。再び家に戻って来ると、さきほどと違った、かすかな爽やかさが身につけ加えられていた。……こういう一寸した気分の転換を彼の妻はよく心得ているのだ。それで、彼は母親にあやされる、あの子供の気持になっていることがよくある。
粗末な生垣で囲まれた二坪ほどの小庭には、彼が子供の頃見憶えて久しく眼にしなかった草花が一めんに蔓っていた。露草、鳳仙花、酸漿、白粉花、除虫菊……密集した小さな茎の根元や、くらくらと光線を吸集してうなだれている葉裏に、彼の眼はいつもそそがれる。