Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate

Aozora Bunko

あのような奇怪な夢も、それを妻に語れば、殆ど彼等は両方でみた夢を語り合っていたので、彼女はすぐ分ってくれそうであった。だが、彼はふと、いつも鋩のように彼に突立ってくるどうにもならぬ絶望感と、そこから跳ね上ろうとする憤怒が、今も身裡を疼くのをおぼえた。殆ど祈るような眼つきで、彼は空間を視つめていた。と、遠い昔の川遊びの記憶がふと目さきにちらついて来る。故郷の澄みきった水と子供のあざやかな感覚が静かな音響をともないながら……。

「こんな小説はどう思う」彼は妻に話しかけた。

「子供がはじめて乗合馬車に乗せてもらって、川へ連れて行ってもらう。それから川で海老を獲るのだが、瓶のなかから海老が跳ねて子供は泣きだす」

妻の眼は大きく見ひらかれた。それは無心なものに視入ったり憧れたりするときの、一番懐しそうな眼だった。それから急に迸るような悦びが顔一ぱいにひろがった。

「お書きなさい、それはきっといいものが書けます」

その祈るような眼は遙か遠くにあるものに対って、不思議な透視を働かせているようだった。彼もまた弾む心で殆ど妻の透視しているものを信じてもいいとおもえたのだが……。