Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate

Aozora Bunko

道すがら雪は容赦なく靴のやぶれから彼の足にしみていたが、泥濘の中をリヤカーで病人を運んで来る百姓の姿も――更に悲惨な日の前触のように、彼の心を衝くのだった。坂路のあちこちには、バタバタと汚れた紙片が貼ってあって、それには烈しい、そして空虚な文字が誌されていた。……寒さと慣れない仕事にうち克つためには、彼は絶えず背中をピンと張りつめていなければならなかった。教員室には、普通の家庭で使用する煉炭火鉢が一つ置いてあった。その貧弱な火をとり囲んで教師達は頻りにガヤガヤと談じ合った。そういう佗しいなかに交っていると、彼はふと、家に置忘れて来た自分の姿を振返ることがあった。長い間かかって、人生の隠微なるものの姿を把えようとしていたのに、それらはもうあのままに放置されてあった。学校から帰って来る彼の姿には外の新鮮な空気が附着しているのであろうか、妻は珍しげに彼を眺め、病んでいる彼女の顔にも前には見られなかった明るみが添った。行列に加わってものを買って帰ると、妻の喜びは一層大きかった。

ある朝、一羽の大きな鳥が運動場の枯木に来てとまった。あたりは今、妙にひっそりしていたが、枯木にいる鳥はゆっくりと孤独を娯しんでいるように枝から枝へと移り歩いている。