Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
「死んで行ってしまった方がいいのでしょう。こんなに長わずらいをしているよりか」
それは弱々しい冗談の調子を含みながら、彼の返事を待ちうけている真面目な顔つきであった。だが、彼には死んでゆく妻というものが、まだ容易に考えられなかった。四年前の発病以来、寝たり起きたりの療養をつづけているその姿は、彼にとってはもう不変のもののようにさえ思えていたのだ。
「もとどおりの健康には戻れないかもしれないが、だが寝たり起きたり位の状態で、とにかく生きつづけていてもらいたいね」
それは彼にとって淡い慰めの言葉ではなかった。と妻の眼には吻と安心らしい翳りが拡った。
「お母さんもそれと同じことを云っていました」
今、家のうちはひっそりとして、庭さきには秋めいた陽光がチラついていた。そういう穏かな時刻なら、彼は昔から何度も巡りあっていた。だから、この屋根の下の暮しが、いつかぷつりと截ち切られる時のことは、それに脅かされながらも、どう想像していいのかわからなかった。
どうかすると妻の衰えた顔には微かながら活々とした閃きが現れ、弱々しい声のなかに一つの弾みが含まれている。すると、彼は昔のあふれるばかりのものが蘇ってくるのを夢みるのだった。