Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
俥がやって来たのは彼が待ち佗びて家に戻って来た後だった。大先生は妻の枕頭に坐って、丁寧に診察をつづける。羽毛をとりだして病人の足の裏を撫でてみたり、ものなれた慎重な身振りだったが、鞄から紙片をとり出すと、すらすらと処方箋を書いた。
「二週間分の処方をしておきますから、当分これを飲みつづけて下さい」
そうして、大先生は黙々と忙しそうに立上る。彼が後を迫って家の外に出ると、既に俥は走りだしている。それは何か熱いものが通過した後のようにぐったりした心地だった。さきほどまで気の張りつめていたらしい妻も、ひどく悲しく疲れ顔で押し黙っている。さきほど用意したまま出しそびれていた蜜柑の罐詰が彼の目にとまった。それを皿に盛って妻の枕頭に置くと、
「ああ、おいしい」妻は寝たまま、まるで心の渇きまで医されるように、それを素直にうけとる。佗しく暗い気分のなかに、ふと蜜柑の色だけが吻と明るく浮んでいるのだった。……だが、その翌日彼が街に出て処方箋どおり求めて来た散薬は、もう妻の口にまるで喜びを与えなかった。何かはっきりしないが、眼に見えて衰えてゆくものがあった。気疎そうな顔つきで、妻はぼんやりと焦点のさだまらぬ眼つきをしている。