Classici giapponesi con furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Leggi 夏の花・心願の国 (なつのはな) di 原 民喜 (はらたみき) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 152.816 caratteri · 310 schermate
妻が幼かったとき一度危篤に陥って、幻にみたという美しい花々のことがふと彼の念頭に浮んだ。
「しっかりしてくれ。すぐ医者はやってくるよ。ね、今度もう一度君の郷里へ行ってみよう」
妻はぼんやり頷いた。玄関の戸が開いて医者がやって来た。医者の来たことを知ると、妻は更に辛らそうに喘いで訴えた。
「先生、助けて、助けて下さい」
医者は静かに聴診器を置くと、注射の用意をした。その注射が済むと、医者は彼を玄関の外に誘った。
「危篤です。知らすところへ電報を打ったらどうです」
医者はとっとと立去った。彼は妻の枕頭に引返した。妻はまだ苦悶をつづけていた。
「どうだ、少しは楽になったか」
妻は眼を閉じて嬰児のように頭を左右に振っていた。暫くすると、さきほどから続いていた声の調子がふと変って来た。
「あ、迅い、迅い、星……」
少女のような声はただそれきりで杜切れた。それから昏睡状態とうめき声がつづいた。もう何を云いかけても妻は応えないのであった。
彼は急いで街へ出て、郷里の方へ電報を打っておいた。急いで家に戻って来ると、玄関のところで、まだ妻のうめき声がつづいているのを耳にした。