Classici giapponesi con furigana
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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Leggi 怪しの館 短編 (あやしのやかた) di 国枝 史郎 (くにえだしろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 81.915 caratteri · 165 schermate
犬神娘
一
安政五年九月十日の、午の刻のことでございますが、老女村岡様にご案内され、新関白近衛様の裏門から、ご上人様がご発足なされました際にも、私はお附き添いしておりました。(と、洛東清水寺成就院の住職、勤王僧月照の忠実の使僕、大槻重助は物語った)さて裏門から出て見ますると、その門際に顔見知りの、西郷吉之助様(後の隆盛)が立っておられました。
「吉之助様、何分ともよろしく」
「村岡様、大丈夫でごわす」
と、二人のお方は言葉すくなに、そのようにご挨拶なさいました。その間ご上人様にはただ無言で、雲の裏に真鍮のような厭な色をして、茫とかかっている月を見上げ、物思いにふけっておられました。でもいよいよお別れとなって、
「ご上人様、おすこやかに」
と、こう村岡様がおっしゃいますと、
「お局様、あなたにもご無事で。……が、あるいは、これが今生の……」
と、たいへん寂しいお言葉つきで、そうご上人様は仰せらました。
行き過ぎてから振り返って見ましたところ、まだ村岡のお局様には、同じところに佇んで、こなたを見送っておられました。
それから私たち三人の者は、ご上人様のご懇意の檀那で、御谷町三条上ルに住居しておられる、竹原好兵衛様というお方のお家へ、落ち着きましてございます。