Classici giapponesi con furigana
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あるおんな
或る女
有島 武郎
Leggi 或る女 (あるおんな) di 有島 武郎 (ありしまたけお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.981 caratteri · 295 schermate
一〇
人の群れが黒蟻のように集まったそこの光景は、葉子の目の前にひらけて行く大きな港の景色の中景になるまでに小さくなって行った。葉子の目は葉子自身にも疑われるような事をしていた。その目は小さくなった人影の中から乳母の姿を探り出そうとせず、一種のなつかしみを持つ横浜の市街を見納めにながめようとせず、凝然として小さくうずくまる若者ののらしい黒点を見つめていた。若者の叫ぶ声が、桟橋の上で打ち振るハンケチの時々ぎらぎらと光るごとに、葉子の頭の上に張り渡された雨よけの帆布の端から余滴がぽつりぽつりと葉子の顔を打つたびに、断続して聞こえて来るように思われた。
「葉子さん、あなたは私を見殺しにするんですか……見殺しにするん……」
一〇
始めての旅客も物慣れた旅客も、抜錨したばかりの船の甲板に立っては、落ち付いた心でいる事ができないようだった。跡始末のために忙しく右往左往する船員の邪魔になりながら、何がなしの興奮にじっとしてはいられないような顔つきをして、乗客は一人残らず甲板に集まって、今まで自分たちがそば近く見ていた桟橋のほうに目を向けていた。葉子もその様子だけでいうと、他の乗客と同じように見えた。