Classici giapponesi con furigana
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あるおんな
或る女
有島 武郎
Leggi 或る女 (あるおんな) di 有島 武郎 (ありしまたけお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.981 caratteri · 295 schermate
一一
それを聞くと、事務長はまだそこにいたかと、葉子はわれにもなくはっとなって、思わず着かえかけた着物の衣紋に左手をかけたまま、うつむきかげんになって横目をつかいながら耳をそばだてた。破裂するような事務長の笑い声がまた聞こえて来た。そして医務室の戸をさっとあけたらしく、声が急に一倍大きくなって、
「Devil take it! No tame creature then,eh?」と乱暴にいう声が聞こえたが、それとともにマッチをする音がして、やがて葉巻をくわえたままの口ごもりのする言葉で、
「もうじき検疫船だ。準備はいいだろうな」
といい残したまま事務長は船医の返事も待たずに行ってしまったらしかった。かすかなにおいが葉子の部屋にも通って来た。
葉子は聞き耳をたてながらうなだれていた顔を上げると、正面をきって何という事なしに微笑をもらした。そしてすぐぎょっとしてあたりを見回したが、われに返って自分一人きりなのに安堵して、いそいそと着物を着かえ始めた。
一一
絵島丸が横浜を抜錨してからもう三日たった。東京湾を出抜けると、黒潮に乗って、金華山沖あたりからは航路を東北に向けて、まっしぐらに緯度を上って行くので、気温は二日目あたりから目立って涼しくなって行った。