Classici giapponesi con furigana
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あるおんな
或る女
有島 武郎
Leggi 或る女 (あるおんな) di 有島 武郎 (ありしまたけお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 149.981 caratteri · 295 schermate
葉子はふと右の肩に暖かみを覚えるように思った。そこには若者の熱い涙が浸み込んでいるのだ。葉子は夢遊病者のような目つきをして、やや頭を後ろに引きながら肩の所を見ようとすると、その瞬間、若者を船から桟橋に連れ出した船員の事がはっと思い出されて、今まで盲いていたような目に、まざまざとその大きな黒い顔が映った。葉子はなお夢みるような目を見開いたまま、船員の濃い眉から黒い口髭のあたりを見守っていた。
船はもうかなり速力を早めて、霧のように降るともなく降る雨の中を走っていた。舷側から吐き出される捨て水の音がざあざあと聞こえ出したので、遠い幻想の国から一足飛びに取って返した葉子は、夢ではなく、まがいもなく目の前に立っている船員を見て、なんという事なしにぎょっとほんとうに驚いて立ちすくんだ。始めてアダムを見たイヴのように葉子はまじまじと珍しくもないはずの一人の男を見やった。
「ずいぶん長い旅ですが、何、もうこれだけ日本が遠くなりましたんだ」
といってその船員は右手を延べて居留地の鼻を指さした。がっしりした肩をゆすって、勢いよく水平に延ばしたその腕からは、強くはげしく海上に生きる男の力がほとばしった。