Classici giapponesi con furigana
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かれぎくのかげ
枯菊の影
寺田 寅彦
Leggi 枯菊の影 (かれぎくのかげ) di 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 6543 caratteri · 14 schermate
憎まれ児世に蔓ると云う諺の裏を云えば、身体が丈夫で、智恵があって、金があって、世間を闊歩するために生れたような人は、友情の籠った林檎をかじって笑いながら泣くような事のあるのを知らずにしまうかも知れない。あの頃自分は愛読していた書物などの影響から、人間は別になんにもしなくても、平和に綺麗に一生を過せばそれでよいと云ったような考えが漠然と出来ていたので、病気で試験を休もうが、落第しようが、そんな事は一向心配しなかった。むしろ病気で身体が弱くなって、学問など出来ぬようになれば、それだけ自分の夢みているような無為の生涯に近づくのではあるまいかと考えたりした。田舎に少しばかりの田地があるから、それを生計のしろとして慰みに花でも作り、余裕があれば好きな本でも買って読む。朝一遍田を見廻って、帰ると宅の温かい牛乳がのめるし、読書に飽きたら花に水でもやってピアノでも鳴らす。誰れに恐れる事も諛う事も入らぬ、唯我独尊の生涯で愉快だろうと夢のような呑気な事を真面目に考えていた。それで肺炎から結核になろうと、なるまいと、そんな事は念頭にも置かなかった。肺炎は必ずなおると定ったわけでもなし、一つ間違えば死ぬだろうに、あの時は不思議に死と云う事は少しも考えなかったようである。