Classici giapponesi con furigana
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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
Leggi 柳橋物語 (やなぎばしものがたり) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 104.300 caratteri · 202 schermate
二
二
おせんのそういう状態はかなり長く続いた。烈しい感動からきた精神的虚脱とでもいうのであろう。もちろん白痴になったわけではない、その期間に経験したことは夢中のもののように朧げではあるがそれでも断片的にはたいてい記憶に残った。ただそれ以前のことがまるで思いだせない、猛火に包まれた苦しさと、お祖父さんと誰かが死んだことは、遠いむかしそこだけの出来事のように覚えているが、それもぽつんと断れていて前後のつながりがまるでわからなかった。
彼女の新しい記憶はお救い小屋から始まっていた。それは蓆掛けに床を張っただけの、うす暗くて風の吹きとおす寒い建物で、身動きもならないほど人が混み合っていた。四五日いたのだろうか、赤児が泣くので隅へ隅へと追われた。自分がわからないありさまだし、もとより赤児の世話などしたことがないから、なかば夢のように揺すったり頬ずりしたりするばかりだった。憐れがって乳を呉れた女もいた。おむつを替えて、なお三組ばかりわけてくれた女房もあったが、長くは続かず、やがて小屋から押し出されてしまった。そうしてふらふら歩きまわっているうち、勘さんに呼びかけられてその住居へひきとられたのである。