후리가나로 읽는 일본 고전
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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
山本 周五郎의 新潮記(しんちょうき)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 155,541자 · 305화면
「ああ失敬」秀之進は苦笑しながら、「おれの言葉が足りなかった、舟の支度をして呉れといったのは、おれが乗るためじゃない、おれは陸を志度までゆくんだ」
「では、囮舟というわけか」
「あしの速いのがいい、少し番所舟を集めて呉れればその隙に脱出できるだろう」
「よし、すぐ都合しよう」
立とうとする大助を秀之進は呼ひ止めた。
「ここに酒があるか、なかったら戻りに用意して来てくれ」
「酒はここにあるが……」
云いさしてふと大助はその意味を了解した。そして、よし心得たと云うと、しずかに庭へと出ていった。その足音が遠のいてゆくと秀之進はふり返って、
「藤尾どの、これへ」
と呼びかけた。藤尾は後から上って来て、それまで部屋の一隅に坐っていたが、呼ばれるとはいと答え、しずかに立って秀之進の前へ座をすすめた。……二人がこのように向き合って坐るのは初めてである。行燈の光りをうけて、艶やかな藤尾の頬は蒼いほども冴えてみえ、理知を絵に描いたような額から眉間へのひきしまった皮膚の感じが、秀之進の記憶にある富士の一夜の情景をまざまざと思いかえさせた。
「あなたにおたのみがある」秀之進はしずかに口を切った、「あなたとはまことにふしぎな御縁でお会いした、風雪の吹きしまく富士での邂逅も、それから今日までの月日も、このような時代なればこそあり得たのだと思う