후리가나로 읽는 일본 고전
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
山本 周五郎의 樅ノ木は残った(もみノきはのこった)을 후리가나와 함께 일본어로 읽으세요. JLPT N2. 단어를 누르면 뜻이 나옵니다.
N2 · 고급 · 신자체·신가나 · 145,078자 · 285화면
七十郎は笑った。眼ではするどく靱負を見ながら、声をあげて笑い、ふじこ、と振向いて云った。
「別れにひと騒ぎしよう、芸者を呼べ」
明くる朝早く、三人は青根の宿を立った。
まだ天も地もまっ暗で、勾配の急な坂道を馬でくだるには、足もとが危なく、三人の馬はしばしば滑ったり、躓いたりした。空が白むまで、かれらは黙って乗っていた。
――もういちど原田甲斐に会いたかった。
と七十郎は思った。
ふしぎなほど、甲斐がなつかしくなり、甲斐と会ったときの、いろいろな場面が思いだされ、胸を絞られるような、肉躰的な苦痛を感じた。
――老獪な、肚の底の知れない男だ。
――いちども本音を吐いたことがない。
――兵部などにまでとりついている。
彼はかつて甲斐に絶交を宣言した。世評だけを信じたのではない、彼の眼にも、甲斐が兵部の与党になった、ということが明瞭にわかった。しかも、それを甲斐自身が隠そうともしないこと、亡き新左衛門が口を尽して本心を聞こうとしたのに、まったく相手にならなかったことなどから、ついに七十郎もみかぎったのであるが、そんなふうに変る以前の甲斐、彼が誰よりも信頼し、敬服さえしていた甲斐の存在は、いまでも、彼の中に根強い魅力として残っていた。