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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

そして人をばかにしたように笑うのであった。これに類したことが毎日きまって二度や三度はある、怒らせるつもりで共謀してやっているので、怒れば向うの思うつぼだから、玄一郎は決して相手にならない。

――柳に雪折れなし。

どっちが続くか辛抱くらべという気持で、いつもやんわり受けながしていた。だが単にそれだけでもなかった。ここはかなめだとみれば楔を打った。

その年末の勘定仕切のときであるが、払い出しの帳簿をみてゆくと、玄一郎が赴任したときの招宴の費用が書き出してあった。重臣たちのが一度、老職たちのが一度、役所の下僚たちのが一度、これらがみな公費とも私費ともつかず請求されているのである。……玄一郎はこれをすぐに払い出し帳簿から削り、勘定書を三者それぞれの詰所へ持ってゆかせた。

「これは勘定役所へまわって来たが、なにかの手違いと思うからそちらへ渡します」

こう云わせたのである。もちろんひと応酬あることは予期していたが、まずねじこんで来たのは役所の下僚たちで、例の益山郁之助、三次軍兵衛、上原十馬の三人が総代となり、しきりに理屈をならべたてた。

「いやどんな理由があっても、こういうものを役所で払うわけには、公用の意味があるならとにかく、これはまったくの私費だから」