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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

「私費とは云えないでしょう」益山がやり返した、「――私どもは私人として貴方を招待する気持はなかった、私どもにとっては貴方は見知らぬ人です、招待しなければならない理由もなし、招待したいと思ったわけでもない、ただ役所の上司となって来られたので、儀礼としてお招きしたわけですからね、私どもとしては面白くも楽しくもなかったんですから」

「それはお気の毒だった、今後こんなむだなことはやめるほうがいい、――わかったらこれはそちらで払って呉れ」

玄一郎はこう云うなり筆を取って机のほうへ向いてしまった。

同じ日のうちに次席家老から呼ばれた。益山税所といって、益山郁之助の伯父に当り、これはのんびり型の、煮えたか焼けたかわからないような老人だった。

税所はやはり勘定書を出して、こういうものは公費でまかなうのが従来の慣習である。これまでずっとそうして来たのだから、今後もそうするようにと云った。玄一郎は断わった。それは勘定奉行として不可能である。江戸邸ではそんな例はないし、そういう慣習を守れという注意も受けていないと答えた。

「しかし私の一存で押しとおすのもいかがですから、すぐ江戸邸へ使いをやって問い合せることに致しましょう、もし役所で払えということでしたら払いますが、それまでこれはいちおうそちらでお支払い願います」