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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

男の客は玄一郎ひとりで、三度めとはいうものの相当ばつがわるい。だがその日はひそかに期していたことがあった。かねて見当をつけていた娘を、もういちどよく見るということである。彼の目標は松尾かくめかで、ひとがらはくめのほうがよいと思ったが、頭のよさと国老の娘である点、彼の求めている条件からすれば松尾をとるべきだと思った。

そういうわけで、その日はばつのわるさもなにも構わず、寧ろ無遠慮なくらい松尾のようすを見まもった。――そういうことには敏感な年ごろだから、娘たちの幾人かはそれに気づいたらしい、松尾はまったく無関心をよそおっていたが、彼の大胆な注視にあううち、ふと眼のまわりを染めたり、とつぜんに動作が硬くなったり、また声になまめいた艶を帯びて、あらぬとき高く笑ったりした。

「ぶしつけですが横笛がありますか」

玄一郎はこう云ってまっすぐに松尾を見た。松尾は眩しそうにまたたきをしたが、さすがにいたずらな羞かみなどはみせなかった。

「稽古用のごく雑なものならございますけれど」

「それで結構です、こちらもほんのうろ覚えで、座興に笑って頂くくらいのものですから」

松尾は侍女に命じて笛をとりよせた。