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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

「まあおひとのわるい、そんなお嗜みがおありとは少しも存じませんでした、ねえみなさま」

娘たちは松尾にならって手を拍ち、くちぐちに褒めたり笑ったりした。だがそのなかでくめひとりだけ、黙って無表情に脇のほうを見やっていたこと、また手を拍ち明るく笑いながら、松尾の眼に怒りの色があったことを、玄一郎はみのがさなかった。

明くる日は全部の役所が休みであった。

こっちへ来て驚いたことのひとつは、役所の休日の多いことである。農村とつながっているためらしいが、なになに祝いとか、忌み日とか、なにそれ祭りとかいって、定日のほか月にたいてい二三回は休みがある。その日は七日正月の慰労だそうで、これは武家だけが、互いに招待し招待され、また料亭などで派手に騒ぐようであった。

玄一郎も重臣の家の三四から招かれていたが、断わって、家で江戸の友達へ手紙を書いていた。すると十時ころに、萩原くめが訪ねて来た。

取次を聞いたとき、ほんのちょっとではあるが玄一郎はどきりとした。昨日の、そっぽを向いた、無表情な顔を思いだしたからである。――くめは色も縞柄もじみな着物でごくうす化粧をしていた。