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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

「それをがまんできない者もおりますわ」

松尾は、屹とした眼で玄一郎を見た。

新婚の家庭は冷たいものであった。松尾は殆んど玄一郎によりつかなかった。身のまわりの世話はすべて小間使にさせ、食事をいっしょにする――江戸では逆である――ほかはまるでべつべつに暮していた。

五月になって、勘定奉行所で大胆な任免が行われた。益山郁之助、上原十馬、三次軍兵衛の三人は役を解かれ、事務係りで七名の者が部署を替えられた。藩主が直接に命じた移動なので、表面はなにごともなくおさまったが、玄一郎の策動とみた人たちの、彼に対する反感は憎悪となっていぶりだした。

策動という意味ではないが、この任免が玄一郎の上申によることは事実であった。敦信の帰国以来、彼はしばしば敦信と会い、今後の方針に就いて意見を交換した。

「しかしそのほう一人でやってゆけるか、重職を二人ばかり江戸から入れるほうがいいのではないか」

「まだその時期ではないと思います」

「だが歳出切下げはもめるだろうし、役所の技術的な面でも協力者が必要であろう」

「それもどうにかやってゆけると存じます」

玄一郎の自信がどれだけ慥かであるか、敦信にはわからないし、疑惧があった。