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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

法令としてはもちろん江戸国許の両重臣の副署を必要とするが、このばあいは緊急措置の手段を執り、敦信の「上意」ということで押切ることになっていた。

「おれがいなくては無理だろう、暫く延ばすほうがよくはないか」

敦信はあわただしい出立をまえにこう云った。しかし玄一郎はその計画が延ばせないことを知っている。敦信は待てるだけ待った。こんどこそといきごんでいる気持が赴任するときからわかっていたのである。

「できる限りやってみましょう、とにかくお墨付をお下げ願います、たいていうまくゆくと存じますから」

「必要なときはすぐ早(急使)をよこすがよい、なるべく無理はするな」

そうして敦信は江戸へ去った。

財政整理の墨付は十二月に来る。それまでは表立ってすべき事ではない、なるべく土地と土地の人々になじみ、ちかしいつきあいをひろげる。彼が自ら云う「地取り」をするのだが、今にわかにそういう奔走をすれば、その時になって却って逆の効果を招くかもしれない。

――じたばたするな、春が来れば花が咲き、秋になれば葉が落ちる、津田老も云ったではないか、上手は釣らぬものだ。

玄一郎は肚をきめた。