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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

襖を閉め、こちらへ寄って来て、少し離れて静かに坐った。

玄一郎はこんどこそ驚いた。松尾は祝言の夜の寝支度である、しかし髪を解いて、化粧も濃くはない。眼を伏せ、身を縮めるように坐った姿は、霜の上に淡紅梅の花が一輪散っているような感じだった。

「――今日なにか聞いたんだね」

玄一郎は夜具の上に起きてからきいた。

「萩原でお噂を聞きました』

「――それで……」

「わたくしお詫びを申さなくてはなりません」

玄一郎は黙っていた、松尾は低い囁くような調子で、ゆっくりとこう云った。

「こちらへ輿入れをしてまいりました晩、あのように申上げましたのは、愚かな我儘と強がりでございました、――本当は初めてお招きしておめにかかったときから、心のなかではお慕い申しておりましたの、明け昏れひとつ家にいて、お姿を眼にしお声を聞きながら、お側に寄ることもできず冷たいようすをつくっていることは、わたくしずいぶん辛うございました」

彼女はそっと指で眼を撫でた。玄一郎はやはりなにも云わない、黙って劬るようなまなざしで、じっと妻の姿を見まもっていた。

「苦しい悲しい気持で眠れずに明ける夜がつづき、こんどこそ思いきって、なにも云わずにお縋りしよう、幾十たびそう決心したかもしれませんでした、――でも夜が明けて、鏡に向うと、もうだめなのです、いつもの我儘と愚か