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いさましいはなし
いさましい話
山本 周五郎
「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页
「堂々といらっしゃいましたね」
誰かがそう云い、みんなが笑った。益山郁之助が前へ出て、やはり唇で笑いながら、敵意と軽侮の眼でこちらを見た。
「お一人ですか。介添はないんですか」
「――一人だ」
「云うこともまずいさましい」
さっきの声がまたそう云い、こんどもみんなが笑った。益山は手をあげてそれを制止し、だが自分でもにやにやしながら、
「ではやむを得ない、作法を御存じなかったのだろうから、介添はここにいる者の中から、選んであげましょう」
「――そんな必要はないさ」
玄一郎はおちついた眼で相手を見た。
「――私は一人でいい」
「しかし自分で勝負の始末はできないでしょう」
「――もうしてあるよ」
適度にまをおいた平静な調子で、激しさや強さの少しもない、閑談でもしているような口ぶりだった。
「――断わっておくほうがいいと思うが、こちらの作法は知らないけれども、江戸では中途半端なことはしない、武士が刀を抜くからには、相手を斃すか自分が死ぬか、この二つ以外には勝負はない、……介添人というのは死躰の始末をする役で、これは出がけに家人へ命じて来た、必要がないと云ったのはそのためだ」