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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

松尾を娶って以来、まわりに遠慮する意味もあって、私的には殆んど往来していないが、いまその席に図書助を見ることは嬉しかった。

益山税所に代って和泉図書助がそこにいることは、明らかに事態が変ったことを示すものだ。玄一郎は緊張していた全身の凝が、こころよく解けてゆくような思いで座についた。

「――お声代りである」

図書助が云った。藩主に代るということで、玄一郎は両手をついた。

「そのほう勘定奉行の職にありながら、責任重き役印をなおざりに致し候こと怠慢に候、よって七日間、居宅において謹慎致すべく、右、申付候――」

声代りと云ったが藩主の名ではなく、城代家老ほかに重臣たちの副署だけである。これにも不服を云えば、云えた。正式に江戸へ裁決を乞えば、せいぜいのところ「軽く叱りおく」程度のことだろう。謹慎七日は重すぎる。だが玄一郎はこれも黙ってお受けをした。

――この申し渡しにはなにかふりあいがあるに違いない。

こう考えたので、黒書院をさがるといちど役所へ寄り、支配と事務のうちあわせをして、すぐに下城した。

帰ることは知っていたとみえて、松尾はそれほど驚かなかったが、玄一郎のほうで、妻があまり憔忰しているのにびっくりした。