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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

玄一郎が江戸を立つまえ、自分がさんざんおどかしたので、ちょっとひっこみがつかないという顔である。

「風あたりは強いが、辛抱する、そういう手紙が来たろう、あのときみんなで帰って来るぞと話していたんだ、井部や萩原はいつ帰るかということで賭けていたよ」

「――帰りゃしないさ、初めから覚悟していたんだ」

「嫁を貰ったと聞いてあっと思った。ことによると居据るぞという気がしてさ、それからあの決闘の話で肚がよめたんだ、こいつしてやられたよと云って、あのときはわれわれ三人で先輩として大いに飲んだね」

玄一郎は、黙って苦笑していた。笑いながら、萩原のくめをこの男にひきあわせ、結婚するようにはこんでやろうと考えた。

「決闘の相手は十人以上だったというが、いったいそれだけを相手にしてやれるものなのかね」

「それより嫁を貰わないか、おとなしくて縹緻よしの娘がいるんだ、家柄も悪くない、少し年はいってるが――」

「笈川のお余りというのはいやだぜ」

八木隼人は、まんざらでもなさそうにこう云って笑った。来るときは雨だったが、黄昏ちかくきれいにあがったので、それをしおに二人は望水楼を出た。

そこは由利川に面した丘のふところで、城下町とはちょっと離れている。