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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

「――悪い口だな、からかってはいけない」

敦信から十月まで休めという沙汰があった。すっかり治ったものの、切れた筋がだめで、少し左足を曳かなければ歩けない。それに馴れるためもあって、玄一郎は十月いっぱい休むことにした。

贈り物をされた向きへは、少しまをおいて松尾を返礼にまわらせた。この土地ではそういうばあい、妻が代理をしても不作法ではないのである。

庫田へは自分がゆくつもりだったが、いちおう妻をやった。ほんのひと跨ぎのところなので、すぐ帰る筈がなかなか帰らない。和泉へでもまわったかと思っていると、やがて戻った松尾のようすがおかしかった。

泣いたような眼をして、挨拶をするとすぐ立ってゆこうとする。庫田でなにかあったと思い、

「ちょっとお待ち、どうかしたのか」

と呼び止めた。松尾は明らかに狼狽した。だがしいて笑顔になり、ちょっと気分が悪いからと云って、逃げるように自分の居間へ去った。

なにかあったことは慥かである。庫田で松尾の泣くような問題が出ようとは思えないが、彼の存在はかなり複雑だから、思いがけないところへ予想外の波が立ちかねない。

おちついたらよくきいてみよう、玄一郎はこう考えた。