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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

するとその夜、もう寝所へはいるころになって、松尾がひと揃えの釣り道具を、居間の廊下まで持って来た。

「これをごらんになって下さいまし」

「――妙な物を持ちだしたな」

「御病気中に庫田さまから頂きましたの」

「――病中って、……寝ているときか」

「お床上げのまえでございます」

玄一郎はこちらへと云って、松尾の持って来たのを取り竿や魚籠や餌箱などを見た。継ぎ竿が三本、魚籠にも餌箱にもどこかで見た記憶がある。

「頂いたときすぐごらんにいれなければいけなかったのですけれど、なんですか不吉なことが起こるように思われまして、どうしても申上げる気持になれませんでしたの、勝手なことを致して申しわけがございません。どうぞおゆるし下さいませ」

「――詫びるほどのことじゃあないが、しかし不吉なことが起こるというのは」

云いかけて玄一郎はふと竿を見なおした。覚えがある。その竿にも、竿の主にも、――彼は道具をそっと押しやり、言葉に詰ったような感じで、暫く黙っていた。

「――これは津田という人の持物だった」

「庫田さまもそう仰しゃってでした、あの方からあなたへかたみにと云って頼まれたそうでございますの、……あなたがこんなおけがをなすったのも、申せばあの方から出たことですし、わたくしどうしてもごらんにいれる気になれませんでしたの」