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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

「――泣くことはない、それでよかったんだよ」

「いいえ、よくはございませんの、それで済まなかったのです、そのときすぐごらんにいれて、よろこんで頂かなければならなかったのでございますわ」

なにか仔細ありげな口ぶりである。玄一郎は黙って妻を見た。松尾は涙を拭き、ふるえる声で静かに云った。

「あなたにはお聞かせしてはならない、黙っているように庫田さまから固くお口止めをされましたけれど、どう考えましても申上げずにはいられません、――口止めをされたということをお含みのうえで、聞いて頂けますでしょうか」

「――云ってごらん」

「今日はじめて庫田さまがうちあけて下さいました、津田さまは、あの事件にはなんの関係もなかった、ただあなたの危難をお救いするために、御自分が主謀者だといって自訴なすったということです」

玄一郎にはすぐには納得がいかなかった。

松尾の話を要約すると、彼が城内押込めになった始終を聞いて、津田庄左衛門はすぐに浪花屋の手代と会い、それが益山たちの企みであることを察した。事件そのものは単純である。しかし益山たちには土地に多くの背景があるから、玄一郎に罪が及ばないとしても、相当ごたごたし紛糾が起こることはまちがいない。