轻松读懂日语经典作品
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いしがおごる
いしが奢る
山本 周五郎
「サンデー毎日臨時増刊仲秋特別号」毎日新聞出版、1952(昭和27)年10月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,304 字 · 45 页
保馬は承知した。いしは保馬を自分の部屋へ案内した。それは母屋と棟のべつになった、隠居所ふうの建物であった。海は見えないが、東と南があいていた。庭は松林で裏山へ続き、筧で引いた山水が、縁先のつくばいにしずかな音を立てて落ちていた。――望湖庵の者はおかねの先達で、内海の対岸にある籠神社へ、一夜お籠りにでかけたのだという、いしのほかには下男の老人と、下働きのお梅が残っているだけであった。
六帖の部屋の、障子はあけたまま、支度のできた膳を前にして、二人は坐った。
「なんだか改ったようで、へんですわね」
「自分でこうしたんじゃないか」
「それはそうだけれど」いしは恥ずかしそうに銚子を持った、「あんまりごらんにならないで」
いしの云うとおり、なんとなく改った感じで、すぐには話がはずまなかった。会わなかったあいだの消息、花の礼など、ぎこちないやりとりが暫く続いた。
「返したい物があるってなんだ」
銚子が代ったとき保馬が訊いた。
「もう少し酔ってから」といしは眼で笑った、「それでないと出せない物ですわ」
保馬に酌をしながら、いしは自分でもしきりに飲んだ。なにかはずみをつけるように、要もないことを云ってはいさましく飲んだ。