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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

祝宴

祝宴

「あのおたねの岩屋の泉は」と村長の島田幾造がいった、「千年か、もっとまえかに、弘法大師が錫杖でもって岩を突いて、水よ湧けといったそうだ、三度も錫杖を突いていったそうだが、水は一滴も湧き出なかった、――そのころこの村は水不足で、両方の村と水争いの絶え間がなかったそうだ、死人もずいぶん出たらしい、そこへ道元禅師が来て、数珠をひと揉みしたら、それだけで水が噴きだしたということだ」

十月七日、この島田村長の屋敷では、男子出生の祝宴が催されていた。宗教の盛んな土地で、真宗の家系と禅宗の家系とは、歴史的に根深い反目と敵意とが続いていた。島田家は代々永平寺の信者であるが、他の多くの家は真言宗、一向宗の信徒が圧倒的で、冠婚葬祭には特に、相互の往来や交渉はなく、村長である島田家の祝宴にも、参会者は同じ宗旨の十二、三人しか列席していなかった。――何百年となく続いた屋敷で、太く反った棟柱が、天床のない屋根裏にがっしり据っているし、ひと抱えもありそうな大黒柱や、食器箪笥や、広い板の間など、年代を磨きこんだ人のちからとで、チョコレート色に光ってみえた。

「村長は口がうめえさ」