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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

二

「だめだ」と男はにべもなく首を振った、「すぐに出てってくれ、ふんとうに、この頃のやつらときたらゆだんも隙もなりゃあしねえ、――すぐ出ていかねえと駐在を呼ぶだぞ」

「いきましょ」りつ子は火を踏み消して云った、「こんなところにいたくもないわ」

隆二は男を憎むよりも、その貪欲と人を疑うその根原にある貧しさ、人間どうしの不信さを感じて、骨まで冰るような思いがした。

――いや、これが真実ではない、と彼はあるきだしながら思った。よくても悪くても人間が人間であることに変りはない、あの男の性質がどんなであろうと、やはり人間としての嘆きや悲しみはあるに相違ない、彼を憎むよりも、彼のために祈るほうが本当だ。

「ねえお兄さん」とりつ子が云った、「今夜どこで寝るの」

二

それから六キロほど坂下の藁小屋で、二人は寝た。仕切り越しに二頭の牛がいて、初めは驚いたのだろう、おちつかなく動きまわっていたが、やがて静かになり、一頭のほうがやさしく、二度ばかり鳴いたと思うと、あとは眠ってしまったのか、なんの物音もしなくなった。

「牛って臭いのね、いやだわ」とりつ子は云った、「ああ寒い、お兄さんのほうへいってもいいでしょ」