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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

「あの岩屋の泉は」とまだ村長は云っていた、「いま京都大学で分析してもらっているが、優秀なミネラル・ウオーターだということに間違えはねえらしい、まだはっきり証拠の出るとこまではいっていねえらしいが、これが本当にミネラル・ウオーターだとすると、道元禅師には先見の明があったのだし、おらたちの村もこれで立直れるだ」

村民ぜんぶが、ふところ手をして食ってゆける、というようなことを、島田村長は云った。

「フランスにルルドってえ岩屋があるだ」と竹中が濁酒を啜りながら云った、「そこにマリアさまが姿をあらわしたってんでな、その季節になると世界じゅうから信者が集まって来るんだとよ、そうして躄も立つし、腰の萎えた人間も立つんだとさ、めくらも聾者もみんな治っちまうっていうことだ」

「おめえひどく詳しいんだな」と相手の男は土地訛りで反問した、「そんなことをどこで覚えたんだね」

「詳しくなんかねえさ、そんなことはどこにでもある話だ」と竹中は首を振りながら答えた、「道元禅師の岩屋のことを聞いてっから思いだしたんだ」

「おめえは物識りだからな」

ミネラル・ウオーターとはどんな物か知らないだろうが、と村長はまだ話し続けていた。