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おごそかなかわき
おごそかな渇き
山本 周五郎
「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页
隆二が全財産を投げだすまえ、網元としての松山家を再建しようとして、けんめいに奔走してまわった。濃紺色の海が荒れて白く泡立ち、もう大陸からの寒風が吹きだしていた。こまかい粉雪の舞う風に吹かれながら、厚く着ぶくれ、防寒帽をかぶった高川叔父が、むだな奔走に出てゆき、疲れきって帰って来るのを、隆二はいたましいとも思い、愚かしいとも思った。あらゆるものに成長の限度があるように、網元として三代、松山家も命数が尽きたのだ、と彼は信じていた。それは現実からはなれた、一種の宗教的な確信のようであった。
松山隆二は全財産を投げだし、母の治療費を除いて、全額を難破した漁師や、船員の遺族たちに配分した。むろん満足な額ではなかった。保険金を加えても、――だが遺族たちは不平も云わず、却って松山家の倒産を悲しんでくれた。
――親方と子方との、ながい伝習のつながりを断ち切ることがこわいのだ、現実よりも感情的にその日を避けようとしている、それでどうなる。
漁業のやりかたも大きく変った。網元式の封建的な作業は、大資本の合理的操業に勝てないばかりか、しだいに圧迫され追いやられるという事実が、もうはっきりし始めていた。